甘い恋は復讐の後で
 バーで伶央さんを閉店まで待つことはなくなった。
 週に一度か、二度、ビリヤード場で一緒に過ごすことがその代わりになったようだった。

 下僕と言われたのに、それらしいことは何もしていない。
 それどころか私の方がビリヤードを教えてもらっている。

 だから伶央さんがわざわざ私に会う理由を探してしまう。

 もちろん、思いのほか律儀な彼がビリヤードを教えてくれると言った当初の言葉通りの行動をしていることくらいすぐに見当がついた。

 分かってる。分かってるんだけどさ。

 
「私、憧れてる人がいるんです。」

 ハス様のことを伶央さんに聞いてもらいたかった。
 けれどそれは自分の驕りだった。

「へぇ。
 前にレストランで食事してた奴か?」

「え……いえ。違います。」

 大谷くんとはあの日以来、気まずくなってしまった。
 大谷くんは私にお酒を飲ませてしまったと思っているみたいで話すこともままならない。

 せっかく仲のいい同期だったのに気まずくなるくらいなら考えなしな行動をしなければ良かった。

 彼氏ってわけじゃ……。

 口先まで出かかった言葉を飲み込む。

 未だに試しに付き合うなんてやめようよってことさえも言えずにいる。





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