甘い恋は復讐の後で
「で?誰に憧れてるって?
 アイドルか?」

 小馬鹿にされているのが伝わって些かムッとしつつハス様の人となりを説明し始めた。

「いえ。顔は知らないんですけど、ネットで相談を聞いてもらっている人で。」

 それだけ言っただけなのに、伶央さんの表情が曇ったのが分かった。

「どうせ碌でもない奴だろ。
 ネットでなんてどうにでも自分を偽れる。
 仮想世界と現実世界を区別しろよ。」

 突然の手厳しい意見に呆気に取られた。

 だって伶央さんがハス様じゃないとしても、同じ相談サイトを使っているみたいなのに………。

「あの……ビリヤードをする人ってハスラーって言いますよね?
 その人のハンドルネームがハスって言って、雰囲気もどことなく伶央さんに似てる時もあったりして。」

 ハス様じゃなかったと分かってからも、伶央さんが時折、見せる優しさがハス様と重なることがあった。
 不器用で天邪鬼な優しさ。

 私は浮かれていたんだと思う。
 自分が憧れてる人と好意を寄せている人の似ている部分を見つけられて。

 伶央さんは苦虫を噛み潰したような顔をして吐き捨てるように言った。

「俺を正体も見せないような奴と一緒にするな。
 そもそもハスラーなんて良い意味じゃない。
 他の奴に使わないことだな。」

「帰る」と言い残して彼は去っていった。
 彼が振り返ることはなかった。





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