甘い恋は復讐の後で
「……飲ませて。」

「飲ませてって………。」

 辛そうな顔をする莉緒の上半身を支えて口に注ぎ入れようとしても飲み込めずに大半をこぼした。
 インターフォンに反応して玄関まで来たくせにかなり辛いみたいだ。

 ハスだと名乗った。
 声だけ聞いて帰るつもりだった。

 姿を見られたら俺だとバレてしまう。
 まぁ、見られた時は前にハスに似ていると言われたから、からかっただけ。と言うつもりではいた。

 それがどうだ。
 つらそうにするだけで俺の顔を見もしない。
 本当にハスが来たと思っているのか……。

 莉緒の様子を伺う。
 莉緒の友達らしきヤツが言ったことはお袈裟ではなかったようだ。

 はぁはぁ辛そうな荒い息遣い。
 汗ばむ体。ほとんど閉じられた潤んだ瞳。

 クソッ。

 否が応でも自分は男だと知らしめられる。
 こんな時に何を考えてるんだ。

 一度目を閉じて心を無にしてから頬に触れる。
 とにかく熱い。つらそうだ。

 悪く思うなよ。人命救助だ。

 勢いをつけて水を口に含んだ。
 勢いをつけなきゃやってやれない。

 そしてそれを莉緒の口に流し入れた。
 口を離して様子を伺う。

 微かに喉が動いて飲み込んだのが分かった。
 ひとまず一安心だ。


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