青夏ダイヤモンド
「脩に近づかないでくれない?」
ポツリ、とひどくか細い声は外から吹き込んで来た風が容易にさらっていった。
「私の気持ち、あんたもわかってるんでしょ?」
「中学の頃から、ずっと脩のことが好きなんだよね」
「そうだよ。私が1番始めに脩の良さに気付いたの。私が1番長く脩のことが好きなの。だから、後から脩を好きになった女には取られたくない」
「でも、それで邪魔したって、決めるのは脩だよ」
谷下さんはキッ、と私を睨みつけ、胸倉を掴んできた。
「そんなのわかってるよっ!私を選んでくれないなら、脩が誰とも付き合わない方がマシ!」
「それ、脩のために言ってる?」
谷下さんは私の事を睨み続けると、乱暴に胸倉を放した。
「それもわかってるから。自己中だって。今回外されたのもそれが発端だしね。自分が1番わかってんだよ」
窓際で突っ伏した谷下さんは、また消え入りそうな声で言う。
「仕方ないじゃん。どうにもならないんだから。脩のこと、好きなの辞めたいって思うこともあるけど、できないんだよっ」
きっと、谷下さんならかっこいい彼氏がすぐにできるだろうし、谷下さんのことを好きな人もいるだろう。
辛い思いをしなくても、恋ができるはずなのに、そうはできずに、ずっともがいている。
谷下さんのか細い肩を見ていると、たまらなく愛しく思った。