青夏ダイヤモンド
「これはチャンスだよ」
下校時に充希が花火大会について高揚しながら話す。
私がピンときていないことを悟って改めて言い直す。
「脩と一気に距離を詰めるチャンスだよ」
「距離を詰める、って、何するの」
「かき氷を交換して食べたり、人混みに紛れて密着したり、花火を見ながら手が触れたりよ」
全部想像してみたものの、どれも現実味が無いくせに、私の顔は熱くなった。
「花火大会行くなら、やっぱり浴衣だよね」
「え、やだよ。あんな歩き難いもの」
「それがいいんでしょ。ちょこちょこ歩けば女の子らしさをアピールできるし、頼りない感じの女子を人混みから守ってくれるかもしれない。それに何と言ってもギャップ萌えするんだから、絶対浴衣」
「浴衣持ってないし」
「私の貸してあげる」
「脩って、そういうの鈍そう。歩くの遅かったらイラつかれそう」
「着たくない理由を連ねてるだけでしょ」
「いや、リアルにあり得るでしょう」
「やらないよりはマシだから、絶対浴衣ね。それに、私だって着たいもん」
小鳥が啄ばむように赤い口を尖らせる。
「それなら充希だけ着ればいいのに」
「1人で張り切ってるみたいなのも嫌なの。だから、協力も含めて、着て?ね?」
そうお願いされて断り切れるほど、言い訳は思い付かなくて、私は小さく頷く。
それに、脩の反応を良い方向に考えようとする淡い期待も湧き出てこないこともなかった。