青夏ダイヤモンド
人混みを抜けると、脩の方からスッ、と手を離す。
手に残っていた自分の物では無い温もりが急速に失われ、何も無かったかのようだった。
会場よりは人が疎らになったものの、駅に向かう小さい波はまだ残っていた。
周りには浴衣姿のカップルが多く、花火の高揚もあってか手を繋いで楽しそうに並んで歩いている。
はたから見れば私達もカップルに見えるのだろうか。
微妙な距離感を保ち、カラコロと下駄を鳴らしながら頼りない足取りで、必死に脩に着いて行くので精一杯なのに。
「歩き難いんだっけ」
歩くのが遅れている私に気付いた脩は歩幅を緩めて私の横に並んだ。
「ごめん。下駄、慣れなくて」
「普通そうだろ」
安定しない下駄のせいで何人もの人が後ろから追い抜いて行った。
後ろから来た人にぶつかられて、「すみません」とお互い小さく謝る。
「ん」
脩が掌を出すので、その手と脩の顔を交互に見比べた。
「嫌ならいいけど」
引っ込めようとする手を私が掴む。
「嫌、じゃない、です」
「何で敬語」
ふっ、と笑った脩の稀に見る柔らかい顔にキュンとした。
「わ、わかんない」
今、顔は上げられない。
さっきまでの遠慮がちな繋ぎ方ではなく、しっかりと私の手を握ってくれた。
浴衣も悪くないな、と思ったのは脩が支えてくれるおかげでさっきよりも歩きやすくなったおかげだけではないことは、自分でも自覚していた。