青夏ダイヤモンド
ざまざまな種類の蝉が鳴く運動公園の敷地内を球場がある奥に向かって充希と並んで歩いていた。
歩いている途中でテニスコートや陸上競技場からも賑やかな声が響いていた。
グラウンドを囲むように階段上に並んだ観客席の1番下の段に座ることにした。
三塁側ベンチの前では見覚えのある面々が準備体操をしたり、飲み物を飲んだりして試合の準備をしていた。
観客席には家族らしき人や彼女らしき人、暇を潰しにきたようなおじさんが疎らに座っていた。
沖田くんは私達に気付くと、手を振ったので、隣にいた充希も笑顔で振り返した。
そのことによって、何人かの部員も顔を上げ、沖田くんを茶化すように小突いたりして戯れていた。
脩も一応こちらを見たが、一瞬視線を向けただけでピッチング練習を再開した。
久しぶりに見た脩は夏休み前よりも日に焼けて逞しくなっているように見えた。
「相変わらず、素っ気ないなぁ」
「何かリアクションあっても怖いけどね」
「んー、それもそうだけど、2人の時って何話すの?話題続く?」
「何、って・・・」
思い浮かべてみたものの、説明するような話題を思いつかなかった。
成り行きでネガティブな話をしてしまったことはあるけど、それがなければ何を話していただろう?
「何も話さない、かも」
「嘘でしょ?」
「何も話さずそれぞれ好きなことをやっている時間が1番いいなぁ、って」
「何、その卓越した恋愛観は」
「変、かな?」
「ある意味、究極?一緒にいるだけで、幸せ、みたいな」
「そんな美しいものでもないと思うけどなぁ」
朝の電車の中でそれぞれが好きな本を読んでいた時間が、私には忘れられなかった。