青夏ダイヤモンド
家に帰ると、珍しく祖父がリビングで野球中継を見ていた。
お父さんがいなくなってから、徐々に野球がこの家から存在を消していったことを思い出す。
「どうだったんだ?野球の応援は」
ソファに座った状態で首を少し捻った状態で祖父が訊ねる。
「勝ったよ」
「面白かったか?」
冷蔵庫から取り出した麦茶を注いでいると、祖父が訊ねる声に硬さを感じた。
「うん。接戦だったんだ」
「それは良かったな」
ダイニングの椅子に腰掛けて、祖父の後ろから野球中継を眺めた。
祖父の後ろ姿を見ていて思ったことがある。
野球が家から消えていったのはお父さんがいなくなる前からだったように思う。
祖父の部屋に別でまとめられた私の野球関係の写真はあれだけ祖父の持ち物に紛れ込んだだけだと思っていた。
物置を漁った時にやたら綺麗な状態で保管されていたグローブは誰かが大切に扱っていたからなのではないだろうか。
「私が、野球しなくなったから?」
聞こえていないのか、聞こえていないふりなのか、祖父の反応は無い。
野球を見たくない、怖い、この家でそう叫んだのではなかったか。
「私、もう大丈夫そう」
テレビの中でホームランが出て、歓声が湧く。
「最近の都は楽しそうだな」
部屋に戻ろうとした私の背中に祖父の優しい声が追いかけて来た。