青夏ダイヤモンド


命令されて、また読み始めたけれど、読み出すと止まらなくて、あっという間に上巻を読み終えてしまった。

下巻を持って来なかったことは後悔だ。

「俺も、それ読んだことある」

「え、ほんと?」

「歴史物とか割と好きで、たまに読む」

「読んだことあるって言われたの、初めて」

そもそも自分の本の趣味を話す相手すらほぼ皆無だ。

初めてのことに気持ちが高揚してくる。

「俺も初めて言った。つーか、友達に言ったところで何それ、って感じだろ」

「何それ、だね」

昨日を考えると、自分が彼を前にして笑っているなんて信じられない。

絶対、怖い人だと思ってたのに、小さく笑った顔は優しい。

「他にも持ってんの?」

「本のこと?あるよ」

「じゃあ、面白かったやつ貸して。俺、こんな足だから家帰っても暇になること多いんだよね」

足を少し持ち上げる。

その足は他の人の足と変わらないように見えるのに、実は不自由なんて、胸が痛くなった。

誰かにオススメを紹介するなんて初めての経験で緊張するけど、グラウンドの隅で寂しげに見えた背中を思い出してしまい、足のことを少しでも忘れられるような本を見つけてあげたいと思った。



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