青夏ダイヤモンド
「明日、持ってくるね。いつもこの時間帯?」
「この時間帯」
「どうしてこんなに早いの?」
「朝練あるから」
首を傾げてから、ふと、昨日のグラウンドの様子を思い出す。
グラウンドの片隅でボールを放っていた姿。
「足、痛いのに?」
「練習見て、イメージトレーニングしてる。ぶっちゃけ、見てるだけってマジ辛い。早く野球してぇなぁって、ずっと思ってる」
「野球、好きなんだね」
「あぁ、好きだな。俺の体の一部」
躊躇いもなく、好きだと言えるものがあると言う彼を眩しく感じた。
「そんなに打ち込めるものがあるって、ちょっと羨ましい」
「部活とかやらねぇの?」
「うん。通学に時間かかるし、勉強の方に専念したいの」
「ふーん。大学狙うなら成南じゃない方が良くね?」
「そうだね。でも、大学狙いで成南を選んだわけじゃないから」
「じゃあ、何狙い?好きな男追って、とか?」
「あ、いいね。それ」
「はぁ?」
すごく、普通っぽい。
自然な思考回路でそんな可愛いことが言えたなら、私はこんなに息苦しくなかった。