青夏ダイヤモンド


同じ時間、同じ駅から毎朝電車に乗って来る脩に本を貸し、斜め前向かいの席にお互い座って本を開く。

ほとんど言葉を交わすことはなくて、電車を降りてからも一緒に学校まで並んで歩くわけでもなく、自分達のペースでそれぞれの学校生活に溶け込む。

保たれた距離感が心地良かった。

この狭い向かい合わせの座席に座っている時間だけが、何もかも忘れさせてくれる。


「はよー。お、何?珍しいじゃん、本読んでんの?」

脩と初めて会った時に現れた友達らしき野球部の男子は毎日同じ時間に乗って来るわけではないらしい。

私が彼と会うのはそれ以来の2回目。

「るせー。朝からそのテンションやめろよ」

「分けてやろっか?」

「いらねー」

背が高くて肩幅も広い修とは違って彼は本当に野球をやっているのかというほどひょろっとしている。

あまり日焼けもしていないし地毛かわからない茶髪。

修との温度差が激しすぎて、友達なのかと疑ってしまうくらいだ。

「お、岩佐」

ふいに、私に気付いた彼は、はっきりとそう呼んだ。

私に向けられた言葉であることは瞬時にわかったのに、本を開いたまま顔を上げられなかった。

「え?岩佐でしょ?」

鼓動が大きくなって、頭の中にまでガンガンと響いた。

「岩佐じゃねぇよ。鷹野」

顔を上げると、修は本に視線を置いたまま自然な様子で私の代わりに返答した。

「鷹野?岩佐じゃねぇの?つーか、修も言ってたじゃん」

「人違いだった」

「えー、マジー?近くで見れば激似だけど?」

「しつけー。本読んでんだから、あっち行ってろよ」

修の友達は私の顔をもう一度覗き込んでから、まだ疑っているようで何か言いながら後ろの方に歩いて行った。


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