青夏ダイヤモンド
昼過ぎから降り始めた雨を理由に野球部は休みになったらしく、充希と沖田くんは一緒に帰って行き、私も脩と帰ることになっていた。
脩は途中で職員室に寄っていたので、私は下駄箱の前で待っていた。
天気予報は雨だったが、それでも傘を持っていない人もいるのか、屋根の下で途方に暮れている生徒や決心して雨の中を駆け出す生徒がいた。
「あ、都さん。こんちはー」
翔馬くんがぺこりと頭を下げる。
「都さんの彼氏って中川先輩だったんですねー。野球部入ったら見覚えのある人でびっくりしました」
「大丈夫?いじめられたりしてない?」
「厳しいですけど、むしろその方が嬉しいんで」
靴を履き替えた翔馬くんはカバンからコンビニのビニール袋を取り出した。
「傘、持ってないの?」
「朝はすごい晴れてたんで油断しましたー」
「待って。これ、良ければ使って」
鞄から折り畳み傘を差し出すと、翔馬くんは手を振った。
「都さん濡れちゃうじゃないですか」
「これ、いつも持ってる傘なの。もう一つあるから大丈夫。使って」
「じゃあ、使わせてもらいますっ」
ありがとうございます、と野球部の挨拶かのように大袈裟に頭を下げた。
「ありがとうございまーす!!」
男子には少し可愛らしすぎる花柄の折り畳み傘を嬉しそうにさしながら、手を振って駆け出した翔馬くんを見送った。