青夏ダイヤモンド
「翔馬?何、傘貸したの?」
「うん。傘無いのに飛び出そうとしてたから」
「ふーん。何であいつ、鷹野にそんなに懐いてるわけ?」
「私に特別懐いてるわけじゃなくて、翔馬くんのスタンダードなんじゃないの?誰にでも人懐っこそう」
「あー・・・、否定はしない」
「野球部でもすぐ馴染んだでしょ?」
「確かにな」
思い当たる節があるのか、記憶を巡らすように斜め上を見ながら眉根を寄せている。
「職員室の用事、長かったね。何か出すだけだったんじゃないの?」
「ヤマセンに捕まってた」
「何で?」
「大したことはなかった」
「ふーん?」
「帰ろうぜ」
上履きを脱ぎ始めた脩に倣って、私も靴を変えて傘箱に差していた傘を手にする。
屋根の下で傘を開くと、脩が滑り込んできた。
「え、脩、傘あるじゃん」
脩は持っている傘を開こうとしない。
私が傘を持っているから脩は首を折って窮屈そうに入っている。
「ダメ?」
たまに、脩がたまらなく可愛い。
結果的に態勢がそうなっているだけなんだろうけど、首を傾げてそんな風に聞かれたら、きゅんとするに決まってるじゃない。
「ダメ、じゃない」
「俺が持つから貸して」
傘の柄を脩が持ち、雨の中を歩き始めた。
そっと、脩の方に体を寄せると、鼓動が早くなったけど、傘に打ち付ける雨の音がそれをかき消してくれて、少しは平常心を保てたと思う。