青夏ダイヤモンド
「降りるぞ」
「え」
電車が完全に止まると、修は私の腕を有無を言わさず引っ張った。
突然のことすぎて、抗う力を出す前に電車を降ろされてしまった。
「な、何するの!?私、全然この駅知らないんだけど!」
「俺も知らねぇ」
「ええ!?じゃあ、何で降りたの!?」
「気まずそうにしてたから」
他には誰も降りることがなかった電車は無人駅をゆっくり出発する。
「女子が友達を変えるのは、何か内紛が起こったからだろ。鷹野は絶対にあいつらを見ようとしなかったけど、意識は向いてた」
「別に、そんなんじゃ・・・」
「あと、泣きそうに見えた」
「え!?泣いてないけど!」
「だから、泣きそうって言っただろ」
ガタンゴトン、と長閑な電車の音は小さくなって行き、ついには聞こえなくなった。
静けさだけが売りのような無人駅に佇んでいると、さっきまでぬくぬくとしていた暖房の温かさが一気に外気に吸い取られるように、体がすぐに冷えを感じていた。
電車の時間を見に行ったらしい修は「やべっ」と小さく声をあげた。
「何?」
私も同じように時刻表を覗き込む。
「次の電車、1時間後だった」
「ええー!?嘘でしょー?」
「だから、この駅知らねぇって言っただろ」
「開き直らないでよー」
「まぁ、いいや。待合室行こうぜ。鷹野は参考書読んで時間潰せばいいじゃん」
怒ったふりをしている自分に気付き、楽しく思っている自分がいることも自覚していた。
立て付けの良くないガラスの引き戸を強引に開けて、待合室の席に座る。
暖房も少し効いていて、外で待つよりは格段にマシだった。
修は本を開いて読み、その横で私は参考書をまた広げた。
「その本、自分の?」
「そう。練習出られるようになってからも少しずつ読んでる。鷹野の影響」
脩の言葉がくすぐったい。
久しぶりに自分以外の人に自分を認めてもらえた気がした。
「じゃあ・・・、今度は脩のおすすめを教えて」
「おー」
脩との時間が心地良いのは、このままの私を無条件に認めてくれるからだ。