青夏ダイヤモンド
「何でそんなに自分に自信ねぇの?」
滴り落ちる前髪の間から脩の黒々とした瞳が私を見下ろしている。
「鷹野見てると、悲観しすぎじゃねぇの、って思うことあるんだよね。自分を必要以上に卑下してさ。鷹野は何と戦ってんの?」
「え、戦ってなんか・・・」
「鷹野が選んでくれた本、全部面白かった。練習出来なくてイライラしてた時にのめり込める本があって、正直救われた。俺は、その時の借りがあるって思ってるから、鷹野のことは気になる。鷹野が何考えてるかわからない時あるけど、何か俺にも出来ねぇのかな、って思うんだよ」
「そんな、こと・・・」
「鷹野にとってはな。俺にとってはそんなことって思えないくらい重要だった。だから、逆にイライラするんだよ。何でそんなに自分のこと卑下すんのかって」
私にとって居心地の良かった登校中の電車の中。
脩も同じように感じてくれていたということ?
与えてもらった空間ではなくて、私も脩に与えることができていたの?
「電車、来たかも。雨、少し弱くなって来たから、今のうちに帰るわ」
確かに、ゆっくりと赤い車体が近づいて来るのが弱くなった雨の中に見えた。
待合室のドアに手を掛けた脩の背中に向かって呼び止める。
「送ってくれて、ありがとう」
笑ったつもりだけど、少し顔が引きつったかもしれない。
「おー。風邪、ひくなよ」
小走りで駐輪場に向かう脩を見送りながら、脩が言った言葉を反芻していた。
何と戦ってんの?
過去に一番囚われているのは、私だ。