青夏ダイヤモンド
数日、壁相手にボールを投げていくと投げ始めはコントロールが定まるものの、後半バテてくるせいで手元がすぐに狂ってしまう。
投げる練習だけではダメだ。
体力作りも必要だと思った。
日が沈んで来ると校舎の裏は影になって割とすぐに視界が薄闇になってしまう。
今日もここまでだ。
そして、今日からは駅まで走ることにしよう。
肩掛け鞄をリュックのように背負ってジョギングを開始する。
グラウンドを横切ると、野球部も片付けを終わらせて帰り支度をしているようだった。
それを横目に校門を出て、しばらく走っているとチリンチリン、と自転車のベルの音が後ろから追いかけて来た。
追い抜かしてもらうために、脇によると自転車は私と並走した。
「何で走ってんのー?」
沖田くんが私の速度に合わせながら自転車を漕いでいた。
その後ろの荷台には脩が座っていた。
「体力作りの一環で」
「体力作り?何のために?」
そうだよね。普通球技大会とは直結しないよね。
球技大会のため、なんて言ったら引かれそうだな。
「ダイエットじゃね」
脩が興味なさげに勝手にそんなことを言い出す。
でも、私が言いにくそうにしたことを察して話をそらしてくれたのかもしれない、とも思ってしまう。
「何でー?鷹野、全然痩せじゃん」
「着痩せするタイプなんじゃねーの」
「何で脩がそんなことをわかるんだよー」
何を思ったか、沖田くんはハッ、とした顔をして私と脩の顔を見比べた。
「お前、変な想像してるよな」
「や、やっぱり、そうなの?」
「んなわけねぇーだろ。もういいから、早く漕げよ」
「照れちゃってー。俺、口は堅いから安心して?」
「お前ほど、軽口の奴は見たことないね」
「ひっでー」
「ほら、漕げって」
「へいへーい。じゃあねー。気をつけて帰んなよ」
沖田くんが手を振るのに合わせて私も手を振る。
2人が自転車で遠ざかって行く姿を、規則的な呼吸を意識しながら見送る。
幼馴染だから、全然違う性格でも仲良くなれるんだろうか?
脩の物の言いようは、かなり直球で、私ならすぐに言い合いになりそうなのに、そうならないのは沖田くんが相当大人なんだろうか?
あれが、信頼関係ってやつなのかな。
いいな、そういうの。