青夏ダイヤモンド
最後の授業が終わり、充希と別れた後、いつものように校舎裏に行くと脩が壁に寄りかかっていた。
「こんなところで、何してるの?」
「鷹野がコソ練してるって噂聞いたから、見に来てみた」
「もしかして、充希に聞いた?」
「自分には何もできないから、少しでも鷹野の力になってくれないか、って。すげぇ、不本意な言い方されたけど、俺、橋下に嫌われてんの?」
充希が脩のことを、あまり良くは思っていないのは事実だけど、谷下さんが脩のことを好きと口外していることもあって、距離を近づけることにも警戒をしているのだろう。
「充希に心配させてるのかもね。でも、1人で大丈夫だよ。脩は部活あるでしょ?」
「今日は顧問がいないから休み。1人でやるにも限界あるだろ」
「じゃあ、貴重な休養日でしょ」
「何?俺がいたら都合悪い?」
「そういうわけじゃないけど」
「じゃあ、やろうぜ」
普段は興味無さそうにするくせに、脩はたまに強引だ。
人の都合や感情お構い無しに。
だけど、不思議と嫌ではなくて、私は容易に脩の雰囲気に流されてしまう。
今だって、ボーッとしている私に向かってさっさとミットを構えて「早く投げろよ」と急かしている。
ピッチャーの脩が自分のキャッチャーミットを持っているわけがない。
わざわざグラウンドから練習用の物を持って来たのだろう。
私がボールを鞄から出して脩の前に立つ。
「グローブねぇの?」
そう言いながら自分の鞄からグローブを出して私に向かって放り投げる。
脩の使い込まれたグローブ。
脩を自己満足に巻き込みたくない、なんて強気だったのに、脩の前では、ひどく脆い。