青夏ダイヤモンド


特進クラスの守備から始まった第1試合。

完全アウェイのグラウンドの真ん中に立った私は、ひとつ大きく呼吸を吐く。

バッターボックスの奥に腰を下ろした脩の指が私にサインを送る。

頷いてから、腕と片足を上げて大きく左足を踏み込んだ。

ボールは真っ直ぐ脩が構えるキャッチャーミットに収まる。

「ストライクッ」

バッターは微動だにせずにボールを見送り、丸めた目を私に向けた。

周りも一瞬息を飲むような雰囲気があったものの、気を取り直して再び賑やかに応援を始めた。

脩は満足そうにボールを投げ返す。


最初は全力投球。まずは黙らせろ。


それが、脩の指示だった。

構えからしてバッターは足に自慢のある初心者だと思われるから、多分脩の思惑には充分ハマってくれたことだろう。

次のボールは見逃しではないものの、タイミングが全く合っていない。

難なく1アウトを取ると、肩の緊張が最初よりもほぐれた気がする。

ボールを投げ込んでいると、だんだんと高揚感が増してきて、楽しくなってくる。

投げる場所を見据えた時に周りの音が小さくなる感覚、振りかぶった時に感じる風、ボールを放った後に響く乾いた音。

ああ、この感じだ。

私が幾度となくマウンドに立つ事にこだわったのは、この感覚がたまらなかったからだ。


< 79 / 232 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop