青夏ダイヤモンド
特進クラスの守備から始まった第1試合。
完全アウェイのグラウンドの真ん中に立った私は、ひとつ大きく呼吸を吐く。
バッターボックスの奥に腰を下ろした脩の指が私にサインを送る。
頷いてから、腕と片足を上げて大きく左足を踏み込んだ。
ボールは真っ直ぐ脩が構えるキャッチャーミットに収まる。
「ストライクッ」
バッターは微動だにせずにボールを見送り、丸めた目を私に向けた。
周りも一瞬息を飲むような雰囲気があったものの、気を取り直して再び賑やかに応援を始めた。
脩は満足そうにボールを投げ返す。
最初は全力投球。まずは黙らせろ。
それが、脩の指示だった。
構えからしてバッターは足に自慢のある初心者だと思われるから、多分脩の思惑には充分ハマってくれたことだろう。
次のボールは見逃しではないものの、タイミングが全く合っていない。
難なく1アウトを取ると、肩の緊張が最初よりもほぐれた気がする。
ボールを投げ込んでいると、だんだんと高揚感が増してきて、楽しくなってくる。
投げる場所を見据えた時に周りの音が小さくなる感覚、振りかぶった時に感じる風、ボールを放った後に響く乾いた音。
ああ、この感じだ。
私が幾度となくマウンドに立つ事にこだわったのは、この感覚がたまらなかったからだ。