青夏ダイヤモンド
「都、楽しそう」
攻守交代になり、マウンドから降りると充希がそんなことを言う。
「そう、かな?」
「うん。ボールもすごいし。周り、ざわついてたよ。私も気分良かった」
ただ純粋に野球を楽しめている自分が信じられなかった。
自分が輝いていた時期を思い出す野球は嫌だったはずなのに、いざ始めてしまえばそんなことが嘘だったかのように楽しんでいる。
「調子いいじゃん」
脩が防具を外しながら満足げにしている。
多分、脩の存在も大きい。
目の前で楽しそうにしている脩の期待に応えたい、と。
試合も中盤を迎え、2-1の接戦を繰り広げていた。
球技大会では時間の関係上、本来9回のところを7回で終わるようになっている。
9番バッターの私の打順は長引かなければ、この一度きりの可能性も高い。
ランナーは2塁に1人。2アウト。
目の前のピッチャーが振りかぶったのを見て、バットを軽く構える。
ボールは掠ったものの、ファースト側のラインを大きく割って、ファール。
次はサード側へ、次は後ろ側。
後ろ側はキャッチャーに捕られそうになったが、キャッチャーが取り落としたので命拾いした。
多分、このピッチャーも野球経験者なのだろう。
様々な位置で球威のあるボールを投げてくる。
次のボールが飛んでくると、かなり高くてインに入って来たので咄嗟に尻餅をついた。
危うく顔面に当たるところだった。
ホッとして深く息を吐くと、キャッチャーと目が合った。
そのキッチャーの口元に一瞬笑みが見えたのは気のせいだろうか。
ピッチャーは帽子を取って頭を下げた。