青夏ダイヤモンド
「鷹野っ!」
ハッ、と我に帰ると、いつのまにか脩が険しい顔で私の肩を揺すりながら目の前に立っていた。
「どうした。顔色悪いぞ。暑さにやられたか?」
脩の肩ごしにバッターボックスを見ると、男子生徒が訝しげにこちらの様子を伺っていた。
どうやら、男子生徒は顔を少し逸らしただけで、あわやデッドボールになりかけたボールを避けることができたらしい。
「鷹野。大丈夫か、手」
言われて自分の手を見下ろすと、小刻みに震えている。
グローブをつけた方の手で右手を覆っても震えが止まらなかった。
「特進クラスー?そろそろ行けますか?」
審判の生徒が駆け寄ってくる。
だんだんと音が鮮明になってきて、周りもざわついているのが聞こえてくる。
「・・・大丈夫。私、やれます」
自分でも情けなくなるくらい、あまりにも頼りない声だった。
「ピッチャー、交代します」
脩が審判にそう告げ、私の手からグローブを抜く。
「しゅ、」
「そんなんでやれるわけねぇだろ」
脩は私の帽子のツバを引っ張り深く被らせた。
「あとは任せろ」
肩を軽く叩かれ、私は覚束ない足取りでマウンドを降りた。