青夏ダイヤモンド
駆け寄って来た充希に保健室に行くか、と言われたが首を振り、1人になりたいと言って教室に向かった。
生徒達はグラウンドや体育館に散らばっているから、校舎内は閑散としていて遠くの方で歓声が聞こえるだけだった。
特進クラスはグラウンドからも離れているせいで、ほとんど音が聞こえない。
自分の席に座ると、突然力が抜けて、机に突っ伏して深く息を吐いた。
あれは、フラッシュバックだ。
もう大丈夫だと思っていた。
血を流した子は目元だったせいか思いのほか血が出たものの、割とすぐに治って数日後には野球の練習に顔を出したらしいということは聞いた。
周りも私が故意にやったとは思っていなくて、落ち込む私に対してむしろ慰める声の方が多かった。
それでも、しばらくは投げることが怖くなって、コントロールもままならなくなって、ピッチャーを外されて、そのまま野球の練習も毎日行かなくなり、消えるように野球チームを辞めた。
担架で運ばれる男の子の目が忘れられなかった。
野球のことを考えると、その目が私を責めているように思えて、野球を見ることからも遠ざけた。
そうしたら、あとは時間と環境が解決してくれて、中学校にあがって、自分が野球をやっていたことを隠して女子らしく、女子の人間関係に翻弄されているうちに、男の子の目を思い出すこともなくなっていた。
球技大会で野球をやることになった時も、そのことを思い出すのではないかと恐れたけれど、意外と平気だったから、もう乗り越えたのだと思っていた。
でも、違った。
限りなく、あの瞬間に近い状況になってしまったせいで、また思い出してしまった。