青夏ダイヤモンド
「大丈夫か」
顔を上げると、脩が立っていた。
「試合、どうなったの?」
「ん、負けた」
「そっか・・・。ごめん」
「お前が投げ続けたって負けたかもしれねぇじゃん。自惚れんな」
「はは・・・、確かに」
「笑うな。無理して笑わなくていい」
脩は私の横の席の椅子を引いて座った。
「1人になりたいんですけど」
「自分のクラスにいて何が悪い」
「私のことなんて、ほっとけばいいのに」
「またネガ鷹野かよ」
「だから元々ネガディブ人間なんだってば」
再び突っ伏したけれど、しばらく経っても脩が教室を出て行く気配は一向になかった。
話す気になったのは、脩なら何てこともないように聞き流してくれるんじゃないかと思ったからだ。
「小学校の時、私が野球やってたの、脩も知ってるんでしょ」
「まぁな」
「6年生の時の試合で、相手の男の子は多分それが初試合だった4年生。私、いきなりその子の顔にデッドボール当てちゃったの。目のあたりだったから、血がダラダラ出て、私怖くて何にもできなくて、ただ見てた」
脩からの反応はないけれど、私は一気に話してしまう。
「男の子が運ばれる時、目が合って、その目が私を責めてた。当たり前だよね。初めての試合だったのに。もしかしたらトラウマになったかもしれない。その目がね、さっき私のことを見てたの。性懲りも無く野球をやって、何楽しんじゃってんの、って」
あの男の子が練習に出られるようになって、その後どういう野球人生を送ったのかまでは知らない。
でも、少なくとも私は野球を楽しんではいけないような気がした。
あの目への償いとして、私も同じように苦しまなくちゃいけない、と。