青夏ダイヤモンド
「それって、鷹野の自己満足じゃねぇの」
「え・・・?」
顔を上げると、思いのほか冷たい目をした脩がこちらを見ていた。
「鷹野がその子と同じ思いしたら、そのデッドボールが無かったことになんの?」
脩の言い分はいつも正論で腹が立つ。
「わかってるよ。無駄なことだって。でも、理屈じゃないんだってば」
むしろあの時に誰かが責めてくれたら、良かったのかもしれない。
私は結局あの子に謝ってすらいない。
周りからの慰めの言葉に甘えて、私からは行動を起こさず逃げた。
それが、一番私の中で許せないのかもしれない。
「鷹野が野球やってる時の顔、あれは取り繕ってできる顔じゃねぇだろ」
「野球やってる時の顔」
「楽しかったんじゃねぇの?野球」
だって、あれは、脩が楽しそうにするから。
脩の期待に応えなきゃ、って思ったから。
「・・・楽しかった」
気づいたら言葉が漏れていた。
一つ溢れたら、次から次へと思いが溢れてくる。
「私、野球辞めたくなかった。好きで好きで仕方なかったのに。野球の代わりになるものを探したけど、どれも中途半端になって、結局は何も残らなかった」
中学になって、周りに合わせるように流行りの食べ物やアクセサリー、メイクに興味があるふりをした。
雑誌を買ってきて好きな芸能人や音楽を無理矢理作った。
でも、どれもこれも私の本心じゃなかった。
本心を出した途端にクラスからは浮いた。
無理するくらいならそれでいいと思ったけど、やっぱり寂しくて、その寂しさを取り繕うように更に人を避けた。
一番好きなものを作ることは、失った時の大きなリスクも抱えることだ。
だったら、最初からそんなもの作らなければいい。