青夏ダイヤモンド
気分転換も含めてトイレに立つと、充希も席を立った。
手を洗っていると、隣に並んだ充希が鏡ごしに「あのさ」ともったいぶった一言目を発した。
「もしかして、なんだけど。都、脩のこと、好きなの?」
脩と出会って最初の頃も充希にそう聞かれたけど、あの時のトーンとは明らかに違う。
ある程度確信を持って充希は聞いてきている。
「・・・正直、わからない」
「そうなの?」
「いや、多分、好き・・・」
「ん?何か、煮え切らない感じ?」
「彼女になりたい、とかは思わなくて、だったら友達を好きだと思うのと何が違うんだろう、って思っちゃって」
「キスとかしたくないってこと?」
私と脩がキスするところを想像しようとして、思考停止した。
「ないないないないっ!」
激しく首を振って想像を振り払う。
「触りたいとか思う?」
「思わない。けど、触れたらドキドキする、かも」
「んー、私が思うに完全なる恋だとは思うけど、レベルが中学生!」
ハッキリと断言されて若干ショックを受ける。
「恋愛レベルが低い、ということ?」
「そういうこと!」
「すごい、遠慮なしに言うね」
「だって、よりにもよって何で脩なの。確かに近い存在ではあるけれど・・・」
「あれかな。初めて見たものを親と思うという・・・」
「それでやっぱり違うって思うならいいけど、もう親と思ったら、なかなか心変わりなんてしないんじゃない?」
「その通りだね・・・」
充希は息を深く吐くと、唐突に顔を上げた。
「都が本気なら、私は協力するよ。脩のことはあまり好きじゃないけど、悪い人じゃないことはわかるから、応援するっ。でも、注意して。美穂の妨害にあって泣く人続出なんだから」
脩のことをずっと好きだという谷下美穂。
その一途さは尊敬に値するが、脩に近づく女子には容赦無い仕打ちをするらしい。
結局、最終的に選ぶの脩なのだから、無意味なこととも思えるが、これも理屈ではないのかもしれない。
あの淡白な脩が誰かを選ぶこと自体、想像できないんだけどな。