憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
「大人しくて本ばかり読んでたけれど、すごく優しくていい子だった。何より、一緒にいて疲れなかったし」
片ひじをつき、恭子さんは窓の外を見た。どこか懐かしむ表情で、恭子さんは暗闇を照らす街灯の光を見つめる。
「ある日、彼女は連絡もなしに学校を休んでね。私が家に行くと、彼女は布団を被ってブルブルと震えてたわ。話しかけてもほとんど返事がなくて。だけど帰りがけに、一言だけあたしに言ったの。
『憑霊の夢を見た。私はもうすぐマーシャの本当の友達に殺される』
……って…」
「マーシャ? 誰なんですかそれ?」
あたしが聞き返す。
「私も最初は何のことか分からなかったわ。でも次の日、彼女は何事もなかったかのように学校に来た。そしてその日から、まるで別人のように明るく変わったの」
恭子さんの言葉に、背筋に冷たいものが走った。
「つまり……その先輩は憑霊ゲームに負けて、憑霊と入れ替わったってことですね」
あたしが聞くと、
「ええ。私もそう直感した。だからせめて……彼女が誰と入れ替わったのか調べようと思ったの」
そう答え、恭子さんは窓の外から真っ黒なコーヒーに視線を移した。
「手がかりは、その子が言ってた『マーシャの本当の友達』ね」
由梨が言うと、英美が「うーん」と首をかしげ、
「マーシャ、マーシャ?……あっ、思い出したっす! たしかマーシャ人形っていう子供向けのおもちゃがあったっすね」
「ああ、あの着せ替え人形の…」
あたしも思い出した。マーシャ人形……たしか外国人の顔をしていて、何種類もある服に着せ替えができるけっこう大きな人形だ。
あたしも昔、一人遊びした覚えがある。
「そう。私もそれを連想してね。それに彼女の部屋にも、マーシャ人形があったことを思い出したの。
だから何かそこにヒントがあると思って、もう一度、彼女の家に行くことにしたの」