憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
「七海ちゃんに何があったかは知らねぇし、聞かねぇけどさ。世界に必要とされてない人間なんて、一人もいねぇと思うぜ。誰しもがたくさんの人に愛されて……今を生きてるんだからな」
そう言い、カイトさんはあたしを励ました。
「そう、なんですかね…」
「由梨ちゃんや英美ちゃん、それに恭也君のことを思い出してみろよ? みんな七海ちゃんのことが、大好きなはずだぜ」
カイトさんの言葉に、あたしは思わず黙り込んでしまった。
たしかに、みんながあたしのことを大切に思ってくれていることは分かっているつもりだ。
だけどあたしの中では、いつも粘りつくようなみんなへの不安があった。
本心では……みんなはモデルを辞めて、ただの七海になってしまったあたしのことを失望したのではないだろうか?
そして、あたしの父親のことを知ってもまだ……前と同じ気持ちであたしを見てくれるのだろうか…?
そんな思いが、心に引っかかっていたのだ。
「……ほら、とにかく元気出せ。これ食うと頭がスッキリするぜ」
目の前にはミント味の辛いガム。昼間、カイトさんが噛んでいたのと同じガムだ。
「これ、めっちゃくちゃ辛いやつですよね?」
あたしが言うと、
「ああ、俺みたいなナルシストになれる薬が入ってる」
冗談混じりにカイトさんは言う。
「ふふっ」
ガムを受け取り、あたしは笑顔を見せた。
「なんだよ? 急に笑いやがって」
「やっぱり、カイトさんはいい人ですね。サディスティックとか、あとその見た目も、本当はキャラ作りなんですよね?」
ずっと思っていたことを、思いきって言った。
「バ、バカ! 違ぇよ! そんなんじゃねぇし!」
あたしの指摘に、カイトさんはけっこう焦っていた。
「じゃあ、どうしてそんな格好を?」
「色々あんだよ。こっちも詳しくは言えねぇけどな」
「ふーん」
「あっ、そういえばまだ、徐霊の報酬の話をしてなかったな」
「えっ、報酬って!? タダじゃないんですか!?」