憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
「ふふっ、……怖いかい? 僕が? 七海の瞳の奥に、僕を恐れる気持ちが見えるよ……」
男はそう言い、ゆっくりと近づく。あたしの目を見据える瞳に、どこまでも深く、吸い込まれるような闇を感じた。
「僕はね……七海のお母さんが大好きだったんだよ。それこそ僕の宇宙が、彼女の存在で埋め尽くされるほどにね……」
観客席にぶつかりながら後退りするあたしに、男は語りかける。あたしは首を横に振り、
「嫌だ、来ないで……」
と男に言う。そんなあたしの怯えきった表情に男は悪魔のような笑みを浮かべた。……そして語る。
「……だけどある日ねぇ。……僕は気づいたんだ。彼女の宇宙に、僕はいない。僕は彼女にとって、名前のない記号に過ぎないと……だから、刻んでやった。僕が愛した彼女の体に、僕の魂の欠片を…」
男は興奮した様子で言い、あたしに手を伸ばす。
「嫌だ!! 来ないでよぉ!!」
あたしは死に物狂いで叫んだ。すると男は、
「僕を!!」
と声を上げ、一瞬で闇の中に消える。
男の消失に脳が反応する前に、男はあたしの眼前に現れ、
「僕を見ろよ!!!!」
とあたしの肩を掴み叫ぶ。