憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
誘惑のキス
☆☆☆
無我夢中で走ったあたしは、売店の前で立ち止まった。
売店の窓は外の光を反射し、鏡のようになっている。あたしは恐る恐る自分の顔を確認する。
「元に、戻ってる…」
顔は男の顔から、元の七海の顔に戻っていた。汗だくで動物のように息を切らせ、五歳も年をとったみたいにげっそりとやつれている。
ホッとしたのと同時に、喉の奥から言葉にできない鬱憤が込み上げてくる。
「なんなんだよ!? もうっ!!」
目の前の窓を拳で叩き割る。ガラスで切った指には血が流れ、その痛みで少し頭が冷静になると、壁にもたれ、頭を抱えた。
英美と由梨に続いて、お母さんにあの男……
今回のエリアは、どうしてあたしの心をこんなに乱すのだろう…?
現実であたしが向き合うことを恐れてきたものたちが、最悪な形で悪夢の中に現れている気がする。
肉体的な疲労よりも、心が先に擦り切れてしまいそうだ。
しばらくうずくまり、打ちひしがれていると、
「ん? ……なんだろうこれ?」
ふとスカートのポケットに違和感を感じた。
今までのゲームではなにもなかったはずが……四角い何かが入っている感覚がしたのだ。
ポケットに手を入れ、取り出してみる。
「これ、スマホじゃん…」
そういえば夢に落ちる前、カイトさんの事務所にいたときもいれてあった。
それにあのとき、たしかスマホの着信音を聞いた気がする。
電源を入れると、そこには二件の着信があった。
着信があった時刻は夜の1時10分。あたしがちょうど夢に落ちる時。なんと二件とも、秒単位で同時にかかっていた。
「あっ!!」
その相手は……