憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~

あたしは近くにあったポップコーンを売っている馬車の形をした屋台の後ろに隠れ、声のした方を見る。


「つっ……!!」


するとそこには、首を失い、内臓をぶちまけて死んでいる男の死体……体型と服装からして、さっきお母さんを襲っていた男の死体と、その上でチェンソーを手に、血まみれで話している英美と由梨の着ぐるみの姿があった。


……正直なところ、心のどこかでは、あの男に対して「ざまぁみろ」と思ったのだろう。


けれど、そのほくそ笑むような醜い感情よりも、二人の持つ残虐さに対する単純な恐怖心の方があたしの中ではるかに勝っていた。


「どうします? どこか探しに行きます?」


着ぐるみの中で響いた、英美の声が言う。


「ふふっ、その必要はないわ」


由梨が笑って答える。


「え? なんでですか?」


「七海は必ず、ここの乗り場に来るもの」


何でそんなことが分かるんだろう? と言いたげに首をかしげる英美に、由梨は話を続ける。


「七海の目的はただひとつ……憑霊の左足よ。ジェットコースターに乗せた以上、現実的にそれを手に入れられるポイントは、一時的にスピードが落ちるここの乗り場しかないわ」


由梨の言葉にあたしはビクッとした。


「なるほど。由梨さんがジェットコースターに左足を乗せたのは、ここに誘き寄せるための餌だったってことっすね!」


やっと理解した様子で英美が言う。


「まぁ、そういうことね。私が直接、左足を持っていてもいいんだけれど、それをすると今度は下手に警戒されて面倒だし」


そう言い、由梨はまた「ふふっ」と笑った。


あたしはやられた! という気持ちで唇を噛む。


……(偽物だけど)さすがは由梨だ。何も考えていないようで、行動のひとつひとつにしっかりと罠を張っていたんだ。


二人の会話を聞いてなかったら、完全にはめられていた。


「次は逃げられないように待ち伏せしないとね。……ほら、行くわよ」


由梨が乗り場に向かおうとすると、


「あっ、ちょっと待ってください」


英美が言った。
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