憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
「なによ?」
「へへ、ちょっと面白いもの見つけて」
そう言い、英美はあたしの方に歩み寄る。
……面白いもの? まさか、あたしがここにいるのがばれたの!?
一気に、周辺の空気が凍りつく。あたしは両手で口を押さえ、屋台の影に潜み、身を隠す。
「へへへ……」
英美は不気味に笑いながらあたしの方にどんどん迫ってくる。
あの笑いは、バレバレの癖に必死で隠れているあたしをバカにして笑っているの? ……だとしたら今すぐここを飛び出して逃げた方が賢明だ。
そう思うあたしの耳に、ギギィッ!! と英美の持つチェンソーとアスファルトが擦れる鈍い音がした。
その音に怯み、いつの間にかあたしの頭から逃げるという選択肢が消え失せ、隠れることに専念していた。
そうこうしているうちに英美は客のようにあたしの潜む屋台の前に到着した。
英美はポップコーンが大量に入ったガラスケースに手を突っ込むと、手のひらいっぱいに取り出し、着ぐるみの口に放り込む。
クチャクチャクチャクチャクチャクチャ……と汚ならしい咀嚼音が耳にこびりつく。
「う~ん、甘くてうんまいなぁ~!! 味はド定番のキャラメルっすよ!! 由梨さんもいかがすか?」
英美の問いかけに由梨は「はぁ」とため息をし、
「食い意地張ってないで早く来なさい。
その”おもちゃ”も捨ててね」
とだけ答えた。
「ちぇ、はいはい」
英美は不満げに返事をし、近くにあった容器にいっぱいのポップコーンを詰めた。その分空間ができたガラスケースに何かを入れ、ポップコーンの容器とチェンソーを手に、由梨の方へ向かう。
ホッと胸を撫で下ろし、あたしはおもむろにガラスケースに目を向ける。
「あっ……!!」
思わず声がもれてしまった。あたしの目は、ガラスケースに突っ込まれ、目を見開き、口をいっぱいに開け、ポップコーンとぐちゃぐちゃに混ざったさっきの男の生首とかち合ったのだ。