憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
「七海さん、逃げなきゃヤバイっすよね?」
英美が恭也に髪をつかまれていたあたしの顔をのぞき、言う。
「逃がして欲しいだろ? 七海?」
恭也は笑いの混じった声で言う。あたしは涙を浮かべ、じっと恭也の目を見つめる。
「いいよ。逃がしてやる」
思いがけずそう言うと、恭也はあたしを離し、あたしを囲っていたみんなも、まるで逃げろと言わんばかりに道をあけた。
わけもわからず、あたしはなくなった腕を押さえ、辺りを見渡す。
憑霊との距離は50mを切っていた。
恭也は笑顔で「ほら、行けよ」と合図する。
あたしは出血で頭が朦朧とし、全身が弛緩していたのを必死で奮い立たせ、左右にユラユラとふらつきながらなんとか歩き出す。
すると後ろでブオオオン…!! とエンジン音がし「うはぁっ!!」と英美が奇声を上げ、あたしのアキレス腱をチェンソーで切りつけた。
「うあぁぁああっ!!」
目に涙が浮かぶほど、鋭い痛みが走る。
「う、動かない……」
傷の影響で足首はピクリとも動かなくなった。……もちろん、立つこともできない。
その間にも憑霊は、ドン、ドンッ!! ……と片足でケンケンし、迫ってくる。
「ほら、早く逃げないと~」