憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
願望
☆☆☆
久しぶりに、ただの“夢”を見た。
それは憑霊に追われる夢でも、明晰夢でもない。
目が覚めるまで、その体験が現実のものでないと疑うこともなかった。
とにかく、よくあるただの夢だ。
夢の中であたしは、四歳の小さな七海になっていた。
その頃、よくあたしの家に出入りして、小さかったあたしのお世話してくれていた喜嶋(キシマ)さんという人がいた。いわゆる家政婦さんだ。
夢の中で、喜嶋さんは太った体を揺らしながら、作りたての夕飯をリビングに運んでいた。
あたしは手伝う素振りもなく、テレビに釘付けになっていた。
放送していたのは、そのとき流行っていた医療もののドラマだ。
内容もよく分かってないくせに、わくわくしながら見ていると、テレビの中に、白衣を着たお母さんが登場した。
「きぃちゃん!! お母さん出たよ!!」
あたしは喜嶋さんに言った。
「あら本当だ! お母さん、今度はお医者さんだね!」
喜嶋さんはテーブルにハムとチーズを置き、あたしに近づいて言った。
「違うよ、”チョイさん”だよ!」
舌足らずにあたしが言うと、喜嶋さんはニコッと笑い、
「そうね。女医さん。かっこいいね!」
とあたしの肩に手を置いて言った。
「うん!
テレビのお母さん、マジかっこいい!」
あたしは大きくうなずいて笑った。
「…………」
そんなあたしの笑顔を見て、喜嶋さんの表情が微かに曇ったのを、あたしは子供ながらに感じ取った。