憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
「ねぇ、七海ちゃん」
「ん、なに?」
「七海ちゃんは、お母さんのこと……好き?」
喜嶋さんは笑顔を浮かべながらも、少しためらった声で言った。
「うん!! 大好き!!」
あたしは少しの間もおかずに即答し、
「あたち大きくなったらね、お母さんみたいになりたいの!!」
と目をキラキラさせながら言った。
「へぇ、そうなの。……すごいね!」
そう言い、喜嶋さんは何度もうなずいた。
するとあたしは顔を伏せ、いじけたように喜嶋さんのエプロンの端をつかんだ。
「七海ちゃん?」
突然、黙ってしまったあたしに、喜嶋さんが声をかけると、
「だけどお母さん……おうちには帰って来ないし、保育園で書いたお手紙のお返事もくれないの。
……あたちのこと……お母さん、忘れちゃったのかな?」
とあたしは涙ぐみながら答えた。
「七海ちゃん…」
喜嶋さんは何か言いたそうな顔をし、唇をぎゅっと結んだ。
「ねぇ、きぃちゃん。どうしたらあたち、お母さんと一緒にいられるの?」
あたしの問いかけに、喜嶋さんは目に涙を浮かべた。
それから喜嶋さんがあたしに何か言った気がするけれど、その言葉を聞き取ることはできなかった。
代わりに「七海さん、七海さん」とあたしを呼ぶ誰かの声が聞こえてくる。
その声によって、あたしは現実に引き戻された。