憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
敵愾
☆☆☆
あたし達はお母さんに会うために、都内にあるテレビ局に向かった。
テレビ局まで凪瀬から電車で一時間半かかり、着いた頃には午後になっていた(今となってはたいしたことじゃないけれど、今日の学校は三人とも無断欠席だ)。
目的のテレビ局は全面ガラス張りのおしゃれな造りで見上げるほど大きな建物だった。
とりあえず広いエントランスから局内へ入った。一階は売店やイベントステージがあって、一般人でも立ち入ることができる。平日の昼間だけれど、観光客とかでそれなりににぎやかだった。
「静海さん、本当にここにいるんですかね?」
中を歩きながら、英美が聞く。
「多分。スケジュール通りなら、今日はドラマの番宣の収録が15時からあるはずだから」
「もう14時過ぎ。けっこうギリギリね」
腕時計を見て、由梨が言った。
お母さんのスケジュールはかなりカツカツだ。収録のあとは、また夜の撮影で移動になる。この機会を逃したら、多分、憑霊ゲームが始まる前には会えない。
「急がないとまずいんすけど、問題はあれ、どうやって通ります?」
英美が言う“あれ”とは、警備員が監視しているテレビ局にある改札のことだ。ここを通らなければ、一般ブース以外に立ち入ることはできない。
改札を通るには入構証が必要で、発行は局に申請しないといけないのが決まりだ。
「入構証を一日で手に入れるなんて無理よね。どうしましょう?」
そう言い、由梨と英美は頭を抱えた。そんな二人にあたしは、
「だ、大丈夫! あたしだって失業中とは言え、元芸能人なんだから! それに樋口静海の娘だって言えば、入構証がなくてもいけるはずよ!」
と言った。
「あっ、たしかに! 七海さん、芸能人オーラ出てますもんね!」
いつもの感じで英美が言った。あたしは「でしょ?」とウインクした。
「でも本当に大丈夫なの?
私、オチまで見えた気がするんだけれど…」
心配そうな由梨に、あたしは「大丈夫! 任せて!」と言い、改札の警備員に交渉に向かった。