憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
「八階が撮影スタジオAか。……まずはここに行ってみない?」
二人がうなずくより早く、あたしは八階のボタンを押した。
エレベーターは上に昇る。
ここまで割りと勢いで来ちゃったけど、これからお母さんに、あの事を聞かなきゃいけないんだよね…?
そう思うと、急に胸がドキドキしてきて、思わず「はぁ……」と大きく息を吐いた。
「大丈夫? 緊張するわよね。いつも通りでいれば、必ずうまくいくから」
あたしの背中をさすり、由梨が言った。なんとなく声のトーンから、あたしがまたお母さんから逃げ出してしまうのではないか? という由梨の不安を感じた。
そんな由梨の目を見て、
「ありがと。でも心配いらないよ。もう十分過ぎるくらい、覚悟はできてるから」
とあたしははっきりした声で言った。
その言葉に由梨はにこっと笑い「そうよね。強いわ。今の七海は」と言った。
そのときエレベーターは四階で止まった。誰かが乗ってくるみたいだ。
あたしは二人に「それに会ってからの心配より、今は会えるかどうかの心配をしないと。この広い局内、そう簡単に見つからないだろうし」と言った。
それと同時に、エレベーターの扉が開いた。四階から乗り込もうとした二人と、あたし達は目があった。
「えっ、うそ…?」
「し、静海さん…?」
偶然か、はたまた幻か?
そこには、お母さんとマネージャーの村上さんがいたのだ。