憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
「ええ。そうよ」とお母さんはうなずく。
「なんすか? バニシングツインって?」
英美が聞く。
「日本語にすると“消える双子”って意味よ。妊娠中に双子の一方が亡くなってしまうと、まれに、その子がお母さんの子宮の中で消えてしまうことがあるの。それがバニシングツイン…」
由梨が言うと、お母さんはもう一度うなずいた。
「なんで……静華のこと黙ってたの?」
あたしが聞くと、お母さんは表情を曇らせた。
「ごめんなさい。七海にも教えるべきだとは思ったわ。……だけど静華の死を知って、七海が辛い思いをしてほしくなかったの。黙っていた方が、七海のためだと思って…」
そう言い、お母さんは自分の手首をつかみ、ぎゅっと握った。
きっとお母さんは、将来、生まれてこれなかった静華に、あたしが罪悪感を感じてしまうのではないか? と恐れたのだ。お母さんの言葉から、そんな思いを感じた。
それから少し間をおき、あたしはお母さんの目を見つめ、
「それじゃあ、父親のことも“あたしのために”黙っていたの?」
と問いかけた。
お母さんは目を見開き、エレベーターで偶然遭遇したときよりも、さらに動揺した表情を浮かべた。
顔が真っ青になり「知ってたの…?」とお母さんは聞き返す。
あたしはうなずき「1ヶ月前……この傷を負った日、村上さん達が話してるのを聞いたの…」とおでこの傷を見せながら答えた。
お母さんは何かに気づかされたのか「ごめんね。辛かったわよね…」と絞り出すような声で言った。
そんなお母さんにあたしは、
「……ずっと、お母さんの口から聞きたかった。どうしてお母さんは、あたしなんかを産もうと思ったの?」
と言った。いつの間にかあたしの目からは涙が流れていた。