憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
「それは違うわ。……たしかに生まれてすぐの頃は、まだあの時のトラウマが癒えてなくて……七海と向き合う勇気が持てなかった。だけど時間が経つにつれて、私の中でトラウマなんかより、七海を思う気持ちの方がずっと大きくなっていったの。……今度こそ、母親として七海と向き合いたい。七海を愛して、母親らしいことをしてあげたい。そう思ったのに……ずっと、七海から逃げ続けた時間が大きな溝になってしまって……私は母親として、七海をどう愛したらいいのか分からなくなってしまったの…」
そう言い、お母さんは涙を流した。テレビの中の演技でなくて、本当に涙を流すお母さんを見たのは初めてだった。
……そっか。同じ気持ちだったんだ。お母さんもあたしと。
そんな言葉が頭を過ったとき、お母さんはあたしに駆け寄り、ぎゅっと抱き締めた。
「今さら、許してほしいなんて言えない。……だけど、これだけは忘れないで。……こんなダメな私でも、七海のことを愛している母親が……ここにいるってことを」
お母さんの言葉に、思わずあたしはお母さんの背中に手を回し、ぎゅっと抱き締めた。長い旅が終わったように、あたしは惜しげもなく、胸の底から込み上げる涙を流し続けた。
「お母さん……あたしこそごめんなさい。あたしも同じだったの。お母さんの気持ちと向き合うのが怖くて……ずっと逃げてたの。……だけど、あたしからも言わせて……お母さん……あたしも大好きだから……勇気を持ってあたしと出会ってくれて、本当にありがとう…」
涙声で途切れ途切れになりながら、あたしはお母さんに言った。お母さんも泣きながら何度もうなずいて「いいのよ七海、ようやく、抱き締めてあげられた」とささやいた。
初めてお互いの気持ちを分かり合えた気がした。このままずっと、お母さんといたかったけれど、楽屋のドアが開き「静海さん。時間だ…」と村上さんが入ってきた。