憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
「水子地蔵ね」
由梨が言った。「水子地蔵?」とあたしが聞き返す。
「流産や中絶で死んでしまった子供の魂を祀るために建てられるお地蔵様のことよ。これだけあるんだから、きっとこのお寺は生まれてこれなかった子供のためのお寺なのね」
それからあたし達は三人でお地蔵様の中を歩いた。近くで見ると、お地蔵様はひとつひとつすごく優しい顔をしていて、前にある風車は、クルクルと風で回っていた。
しばらく歩くと、あたしは引き寄せられるように、あるお地蔵様の前で立ち止まった。
「あった。これが静華のだ…」
そのお地蔵様は他のお地蔵様とあまり違いはなかったけれど、土台の石に“樋口静華”と名前が刻まれていた。
あたしはお地蔵様の前に座り、その名前を手でなぞりながら「一目で分かったよ。お母さんの名前、“静かな海”と書いて“静海”って読むでしょ。あたしの名前、七海もお母さんから“海”の一文字をもらっているの。だから静華も…」と独り言のように呟いた。
すると英美も「繋がってたんすね。七海さんと静華さんは……生まれたときからずっと…」と呟いた。
あたしは静華のお地蔵様を見ながら深くうなずいた。このとき静華のお地蔵様のよだれかけがとれかかっていることに気がついた。
「ねぇ七海。私、ずっと考えていたんだけれど。憑霊が……いえ、静華がなんで七海を憎んでいるのかって…」
由梨が言った。あたしは由梨の方に視線を移す。