憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
遠目ではっきりとは見えないけど、誰かに引きずられているのだろうか? 廊下の角を、いくつもの人間の頭のようなものが曲がり、消えていった。
一瞬、身がすくむ思いがした。だけどすぐに、あの中に静華の頭があるかもしれない。ということに気がついた。
「……だとしたら、追いかけないと!!」
あたしは廊下を走り、奥へと進む。すぐにさっきの頭が曲がった地点にたどり着いた。そこを曲がると、今度は頭と、それを引きずる人影が見えた。多分、さっきあたしに声をかけた人だ。
すぐにまた、その人は角を曲がり、視界から消えてしまった。
思わず「ねぇ、待ってよ!!」と言い、もう一度、追いかける。そして角を曲がると、今度は奥にある病室に、頭が引きずられていくのが見えた。
息を飲み、あたしはその病室に近づく。
扉は開いていて、廊下からでも中の様子が確認できた。
「あれ? 誰もいない…」
見たところ首も、人の姿もなかった。病室のカーテンが開いていて、月明かりが中を薄暗く照らしている。病室の中は、真ん中を開け左右にベッドが二つずつ。窓際には、赤い車椅子があった。
あたしは恐る恐る病室に入った。やっぱり人の姿はない。おかしいな。さっきの首を引きずっていた人はどこに行ったんだろう?
そう思って、おもむろに車椅子に近づく。すると背後から男の手があたしの口をふさいだ。
「むぐっ…!!」
すごい力で、顎をあげられる。首元には、手術で使うメスのような刃物。背後の人物はあたしに「君のと……交換しようか…?」とささやいた。