憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
喉を切り裂こうとするメス。あたしは両手で男の手を止める。プルプルと腕が震える。毎秒1cmで刃先はあたしの首に近づく。とっさに勢いよく体を下に縮める。すると口を押さえていた手が滑り、うまく男から逃れることができた。
そのまま部屋の奥へと退き、振り返る。そこには青緑色の手術着にゴムの手袋、血に染まった白いエプロンにマスクをつけた背の高い男が立っていた。その見た目は執刀医のようだ。
男は上品な口調で「お探しなんだろう? 君の首を僕にくれれば、僕のコレクションをひとつ君の体につけてあげるよ」と言った。
男の腰に鉄のベルトがまいてあり、そこにつけられた五つの鎖の先に、それぞれ長い髪の女の人の頭が結びつけられていた。
異様な姿にあたしは息を飲んだ。男の右手に握られたメスに、遊園地で受けた拷問の痛みがフラッシュバックする。
「さぁ? どうする? 君は美しい。もっとも目の上に、少々、欠陥はあるようだが…」
そう言い、ふふふっと不快な声で笑う。あたしは拳を握り、口角を上げ「あいにく、この顔も気に入ってるんだよ。これが正真正銘、今のあたしだからね」と言い返した。
「………」
男はあたしの挑発に笑いを止め「そうか。じゃあ死ね!!!!」と叫び、腰につけた首を揺らしながら、あたしの方に飛びかかってくる。