憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~

とにかく、この狭い部屋から逃げないと!!


とっさにあたしは後ろにあった車椅子を勢いよく、男の膝に滑らせる。ガシャン!! と車椅子は男の膝に直撃し、男はよろめいた。


近くのベッドの上に上り、男の横を通る。男はメスをあたしに向けて振り回す。


「くっ…!!」


紙一重でかわし、そのまま入り口へ向かう。気のせいだろうか? 男の腰についた女の首があたしの目を睨んだ気がした。


そのとき「痛っ!!」太ももに鋭い痛みが走る。見るとメスが太ももに刺さっていた。あの男が投げたの!? 振り返ると、男はもう一本メスを取りだし、あたしに迫ってくる。歯を噛みしめ、刺さったメスを引き抜く。また鋭い痛み。……でもまだ走れる! あたしは廊下に出て、全力で走り出した。


男は笑いのような悲鳴のような声を上げながらあたしを追う。


廊下を進むと、右手に四階へ続く階段があった。階段を上り、四階へ逃げる。あいつも首を引きずりながら追いかけてくる。


階段を上り終えると、すぐ近くに異様な雰囲気の扉があった。鉄の扉で、近くには“手術室”の文字があった。


階段から聞こえるあいつの声はどんどん近づいてくる。さっきよりも興奮した声で、あたしへの殺気がピリピリと伝わってきた。


考える間もなく、あたしは手術室の中に逃げ込んだ。すると室内に黄色い明かりがパッと点灯した。


中には大きな手術台があり、その近くにはモニターと医療器具、部屋の隅には棚や椅子等が並べられていた。
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