憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
「な、なに…!?」
……異変はそれだけじゃない。
周りにあった物や建物も消えてしまったのだ。病院じゃない。あたしは一人、何もない……ただ暗闇の世界に取り残された。唯一、なぜか自分の体だけは、暗闇に浮かび上がるように見ることができた。
「嫌だ、怖い、怖い、怖い!!!!」
止めどなく恐怖と不安が心にあふれ、あたしは無我夢中で走り出した。
「由梨!! 英美!! お母さん!! 恭也!! みんなぁ!!」
渾身の力で、名前を呼ぶ。だけどその声に応じる者はいなかった。それどころか右も左も、自分がどこを走っているのかさえも分からない。ただ何かとてつもない恐怖に追いかけられている気がして、それから必死に逃げるために、ひたらすら走り続ける。
すると目の前に“七海”の姿をした憑霊が現れた。暗闇の中でも憑霊の姿だけははっきりと見ることができた。
「ひぁっ!!」
憑霊は手に、まだへその緒がついた、か細くて未成熟な赤ちゃんを抱いていた。赤ちゃんは辛うじて生きているみたいで「ひっ、ひっ…」と苦しそうに呼吸していた。