憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
驚いたあたしはナイフを床に投げ捨てた。ナイフは濡れた床の上を赤い水しぶきをあげながら滑っていく。
一体、何が起きているの?
突然の出来事に頭が追いつかなかった。
もしかしてまだ夢の中にいるのかな?
だけど一日目の憑霊ゲームには勝ったし、感覚的にも明晰夢を見ているとは思えない。
じゃあ、どうしてあたしはこんなところにいるのだろう?
困惑するあたしの頭にふと恭也の言葉が過ってきた。
「そうだ。……思い出した!!」
憑霊ゲームの最中、どうしても思い出せなかった憑霊ゲームのルール。
たしか憑霊ゲームの夢を見ている間、現実世界では憑霊に自分の体を乗っ取られるんだ…!!
なんでさっきはこんな大切なルールを思い出せなかったのだろう。
あたしは寝ている間に体を憑霊に乗っ取られてこのトイレに来たんだ。
それにさっきのナイフも憑霊があたしの体を使ってポケットに入れたのだろう。
でも、だったらあの血は? ……もしかしてあたしが誰かをナイフで襲って傷つけたの?
不気味に思うあたしの目に、ふと奇妙な文字が映った。
それは出しっぱなしになっている蛇口のすぐ上の壁に設置された鏡にケチャップのような赤い字で書かれていた。
あたしはその字を確かめるために恐る恐る鏡に近づく。