憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
「ちょっと私、用意するものがあるから二階に行くわね」
そう言い残して由梨が二階に行ってから10分くらいが経つ。
あたしと英美は特にすることもなくテレビを見ていた。
「ははっ、この人のギャグ最高っすよね~!」
あたしの目にテレビを見て笑う英美の横顔が映った。
英美はもともと凪瀬校からかなり遠くにある田舎村の出身だ。
それがモデルをやっていたあたしに憧れて、あたしと同じ高校に通うために凪瀬校に進学してきた。
英美によると、あたしの側でたくさん勉強して、あたしみたいになりたかったらしい。
何と言うか……究極の高校デビューだ。
入学当初は田舎者って感じだった英美も、今ではあたしと由梨の影響ですっかり可愛くなっていた。
「…………」
……そんな英美にあたしはひとつ心配なことがあった。
本当のところ、あたしがモデルを辞めてしまっことを英美がどう思っているのか分からなかったのだ。
口では、
「七海さんが決めたことなら、オレも異存ないっす!」
とか言っていたけれど……心の中ではあたしのこと、多分かなり失望したんだと思う。
英美はもともと“モデルのあたし”に憧れていたに過ぎないんだから。
きっとモデルの仕事を辞めてしまったあたしは、英美の中の“憧れのあたし”とは違う。
だから前より少しだけ、英美との間に溝を感じるようになった。
もうあたしは昔ほど英美に必要とされないんじゃないかって思ってしまう。
それにきっとそれは、親友の由梨にだって…。
そんなことを考えていると、二階から由梨が降りてきた。
「お待たせ~、なかなか見つからなくて時間かかっちゃった」
「ゆ、由梨さん、なんすかそれ!?」
由梨の手にはなぜか麻縄とスマホ用の三脚があった。