憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
「はぁ、はぁ…!!」
少し走って、あたしは近くの部屋の中に逃げ込んだ。
すぐそこまで憑霊は来ているはず…。
あたしは部屋の窓の障子を開け外に逃げようとした。
「……でも、どうしよう…!!」
仮に外に出て、広い庭で隠れる場所がなかったら…?
すぐに追いつかれて捕まってしまうのがオチだ。
……だったらまだ、通路の狭い屋敷の中にいた方が安全かもしれない。
部屋の中にはものが収納された押し入れがあった。あたしは窓を開けたまま、押し入れの中に隠れた。
……それから一分もしないうちに、ズザザザ!!と部屋の入り口の障子が開く音がした。
ペタペタペタペタ…。
憑霊が部屋の中を歩きまわる音がする。あたしは息を殺して身を縮めた。
……さっき窓を開けておいたのは、単純だけど、外に出たと憑霊に思わせるためだ。
あたしは押し入れの戸の隙間から部屋の中を覗く。
まだこっちには気づいていない様子だ。
「フフ、ハハハハハハッ……!!」
「っ……!!」
憑霊は突然、笑い声を上げた。
……まさか、押し入れにいるのがバレたの!?
緊張で心臓がバクバクと脈打つ。
「フフッ……フフッ!!」
憑霊は笑いながらあたしのいる押し入れに迫る。
そして押し入れの前まで来て、あたしが覗いていた隙間に指を入れた。憑霊の細い指ががっしりと戸をつかみ、勢いよく戸を開けた。