憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
どっと疲れが出た。大きなため息をつき、どうしようもない気持ちになる。
「ん……?」
ふと祭壇に目をやると、真ん中に丸い鏡が飾ってあった。
たしかこれ、神鏡っていうやつだ。
どこの神社にも、だいたいこの鏡がご神体として神社の本殿に祀られているらしい。
「…………」
鏡には走り疲れて汗だらけになったあたしの顔が映った。
おでこにかかる前髪は、汗で海に入ったときのように束になっている。
あたしは目にかかっていた前髪を少しだけかき分けた。
すると右目の上の方に、ずっと前髪で隠してきた切り傷の跡がくっきりと見えた。
「やっぱり、まだけっこう目立つな……」
傷を見て、あたしはまた憂鬱な気分に浸った。
……この傷をのせいで、あたしはモデルを辞めることになったのだ。
「たしか、あの日…………」
1ヶ月以上経った今でも、傷を負ったときの記憶が鮮明に頭によぎってきた。