憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
医者と看護師の制止も聞かず、あたしはベッドを立ち個室にある洗面台の鏡の前に行った。
そして、恐る恐る傷を隠していたガーゼをはがす。
「こ、これって……」
あたしの右目の上には、赤く腫れ上がった傷がくっきりと刻まれていた。
……昨日まで、あたしの顔は普通だったのに。
心がざわざわとし、お腹をぎゅっと絞められた気分だった。その場に座り込み、あたしはショックで泣き出した。
「この傷、治るんですよね…? それとも跡に、残るんですか…?」
あたしは恐る恐る医者に聞いた。すると医者はためらいながら口を開いた。
「残念ですが、完全に治すことは不可能です。腫れがひけば、今より目立たなくなるとは思いますが…」
「そんな……」
全身の血が凍りつくような感覚がした。
他人(ひと)からすれば、たったひとつ、顔に小さな傷ができただけだ。
だけど、モデルをしていたあたしにとって、顔の傷は自分の命を削り取られるようなものだった。
「これじゃ、もうあたしは……」
モデルとして、今まで必死に努力してきたのに。
それがこんな偶然によって一瞬で崩れてしまうなんて……
「七海……」
泣き崩れるあたしに、お母さんは後ろから静かに声をかけた。