憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
「これからのことは、少しずつ考えていけばいいから……」
お母さんが言ったのは、たったその一言。
「お母さん……」
あたしは泣きながらお母さんの方を向く。
すると、お母さんは気まずそうに目線を反らし、
「じゃあ、私は仕事があるから……」
と言い残して、病室を立ち去ろうとした。
「待って、お母さん……」
小さな声であたしは呼び止めた。だけど、お母さんは振り返ることもなく行ってしまった。
「待ってよ…………」
やるせなくて、切ない気持ちがあたしの胸にこみあげてきた。
「……なんで、側にいてくれないの?」
暗闇に取り残されたような孤独を感じ、あたしはポツリと呟いた。
少なからず、期待していたのかもしれない。お母さんならきっと、あたしを抱き締めてくれるって。だけど結局、あたしがどんなに傷ついても、お母さんとの距離は、ずっと遠くに離れたままだ。
普通の親子のように、お互いの心が触れあうこともない。
あたしにとって家族は、お母さんだけなのに…。