憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
それから一日中、傷と頭の検査をした。
外傷以外には特に異状もなく、あたしは検査を終え病院の喫煙所の前を通りかかった。
そのとき、
「あれ、あの人たちって…?」
喫煙所で、昔からお母さんのマネージャーをしていた村上さんっていうおじさんと、もうひとり新人の若い男の人が煙草を吸って話していた。
二人はお母さんの付き添いで来たのだろう。
「あの……」
あたしはあいさつをしようと二人に近づいた。すると、二人の会話が聞こえてきた。
「…ったく、なんであんな娘のために静海(シズミ)さん、こんな病院まで来たのかね? あとでスケジュール調整すんの俺達なんだけど?」
村上さんが言った。
「娘って、あのティーンモデルの樋口七海っすよね? たしか、一般人とできた子って話っすけど。
ひどい男で、籍も入れなかったっていうじゃないすか?」
どうやら二人はあたしのことを話しているみたいだ。ちょっと気まずくなって、あたしは二人に隠れて聞き耳を立てた。
「はぁ? そっか、おまえ新人だから何も知らねぇのか」
「えっ? 何がすか?」
「世間にはあいつの父親は一般人の男ってことになってるけど、本当は、もっとヤバい奴なんだよ」
その言葉にびくっと体が反応した。
どういこと? ……あたしが聞いた話だと、お父さんはお母さんと喧嘩して、あたしが生まれてすぐいなくなったんじゃ。
「えっ、じゃあ、七海ちゃんの本当の父親って誰なんですか?」
「絶対にばらすなよ? 事務所と静海さんでマスコミにもなんとか隠蔽したんだからな」
村上さんは煙草をふかした。
なんだろう? あたしの本当の父親って……
あたしも息を飲んで耳をすます。