憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
「あれ? ここって…」
そこには憑霊の姿はなかった。異様なほど静かで、いるだけで吐き気がするような不気味な空間だ。
「うわ、何よこれ…!?」
しかもよく見ると、鏡に映し出したかのように、祭壇の位置や置物の場所……そして、祭壇にあった神社の文字が全て反転していたのだ。
「本当に、鏡の中の世界に来たってこと?」
何が起こってもおかしくない。……とは思ったけれど、さすがにポカンと口を開けてしまった。
そういえば、さっきはいくら神社を探しても右腕が見つからなかった。てことは、この鏡の世界に、憑霊の右腕が隠してあるのかもしれない。
「もしそうなら、あそこの部屋とか怪しいかも…」
あたしの頭にふとある部屋のことが過った。そのとき、
ズズズズズズズズズ………!!
「うわっ!!」
祭壇にある神鏡とその周りの空間がぐにゃぐにゃに歪み出した。その中心から、憑霊が這い出て来る。
「こいつ、もう追いかけてきたの…!?」
憑霊は下半身が出きっていない状態であたしに思いっきり手を伸ばす。
「逃ガサナイ、……絶対ニ、逃ガサナイカラ……!!!!」
その指先は……まるであたしの命をもぎ取ろうとしているようだった。
「ひっ…!!」
ゾクッと全身が震える。あたしは全速力で神殿を飛び出した。